AIが切り拓く経済の未来予想図

AIが切り拓く経済の未来予想図

気候変動や国際情勢など、この不確実な時代の中で、AIによる未来予測技術は、私たちに何をもたらすのか。
独自の視点から「フォーキャストテック」を提唱し、画期的な経済予測サービスを実現したxenodata lab.。
因果関係を可視化し、チャンスやリスクを予見するーー
意思決定のあり方を変える、ビジネス革新の未来ビジョン。

経済ニュースから市場変化を予測するAIサービス「xenoBrain」

弊社は、世界中から経済ニュースを収集し、それぞれの情報の因果関係をAIで自動解析することによって、今後の企業の業績や市場動向を予測するサービス「xenoBrain(ゼノブレイン)」を開発・展開しています。機能としては、ある経済ニュースが関連業界各社にどのような影響を及ぼすのかを表示したり、自社などの企業業績、業界需要、素材価格などに影響する可能性があるニュースを抽出して表示したりするというもの。このサービスを2019年6月に正式リリースして、既に大手メーカーや金融機関などに導入していただき、精度やサービスの向上を図っているところです。

ダウ・ジョーンズのニュースコンテンツ分析プラットフォーム「ダウ・ジョーンズDNA」との業務提携によるサービス提供の概念図。

設立の経緯ですが、慶應義塾大学商学部に在学中から会計士として監査法人に勤務し、その後、経済情報サービスの開発に携わったことが背景にあります。株式会社ユーザベースで世界の経済情報データを収集し、ユーザーが検索できるアジア最大級の経済情報プラットフォーム「SPEEDA」の事業開発責任者を務めた際、ユーザーインターフェイス、サービス設計にも携わる一方で、AI分野のエンジニアたちとデータ解析で「どんなことを、どこまでできるか」といったやりとりをしていました。その中で、自分が持っている財務の知識に経済情報やAIなどのテクノロジーを掛け合わせることで、画期的なサービスを作り出すことができるのではないか? というアイデアが生まれたのです。

というのも、テクノロジーがこれだけ発展した世の中にあって、経済予測は未だに専門家の能力に大きく依存している状態。財務資料や統計データなど、膨大な情報を読み込んで分析する必要がある以上、相当な時間がかかります。しかも、統計や株価、財務など、数値で表される定量データは経済事象の結果であり、あくまで過去の出来事にすぎないため、予測の部分は専門家の経験則に頼らざるを得ないというのが実状でした。

こうした作業をAIが担うようになれば、対象となる業界の原料産出国の気候や景況感、国際的な経済や政治の情勢から、その企業や製品の実績に至るまで、非常に広範囲のデータを一瞬で解析できるようになる。もちろん、高度なスキルを持ったアナリストであれば、経験に基づいてより深い分析ができるかもしれませんが、AIもまた学習を繰り返すことで、より速くより深い分析ができるようになるはず。そう考え、16年2月にxenodata lab.を設立し、開発に取り組んできたというわけです。

自然言語処理による経済分析で、革新的なサービスを実現

弊社の技術的な特性としては、自然言語処理が中心となります。「自然言語」とは、プログラムのように構造化されたルールを持つ「機械言語」に対して、私たち人間が使っている言葉や文章のこと。こうした言葉は非構造化データと呼ばれ、例えば「天然ゴムの価格下落によって、原材料価格が低下し、業績が上がった」という文章を機械に読み込ませようとしても、このままでは「天」「然」「ゴ」「ム」……といった文字の羅列としてしか認識されません。そこで、まずは名詞、助詞、助動詞などへ品詞分解を行い、文章の構成を理解させる。さらに「天然ゴム」という原料があり、その「価格」が「下落している」という意味付けを行っていく必要があります。

こうしたパターンを膨大に積み上げていくことに加え、それらのパターンの効率を高める独自の技術により、分析の精度を上げていく。それによって、一つひとつの記事の内容を正確に理解し、相互に関連する現象を解析できるようになる。従来の定量データの解析はやり尽くされている一方で、まだ実現していない“自然言語による経済分析”に取り組む理由がここにあります。

無数の経済事象の連関をつなぎ合わせていき、将来の動向を予測する。

実際のサービスの流れとしては、経済ニュースをリアルタイムで読み込んでいき、そのトピックに関連性のある企業の因果関係ツリーを自動生成していきます。アナリストが内容を精査して、さらに知見を織り込むこともあります。このツリーによって、これまでの経験則では気づかなかった因果関係や変数の発見につなげていただくのが、現在推奨している使い方です。メーカーの経営企画の方であれば、これまでは自社の業績とは関係がないと思っていた別業種との関連性から、新たな機会やリスクを発見できます。金融機関やコンサルティングファームであれば、リスク調査や経営支援にご活用いただく。

また、営業のターゲティングリストへの活用も考えられます。例えば不動産会社の場合、実績や従業員数の伸び、業界の動向などを総合的に分析して、オフィスの移転・拡大の可能性が高い企業をリストアップするといった使い方が考えられます。

これまでは「未来はどうなるか」ということは、事業の意思決定や経営判断にとって大きなリスク要因でした。しかし「xenoBrain」をはじめ、予測精度を高めて自動化することでそのリスクを軽減できれば、意思決定のクオリティが向上し、企業単位での経営の安定化に留まらず、業界全体、ひいては世の中が前に進んでいくきっかけになるのではないでしょうか。

「xenoBrain」のニュース分析機能が自動生成した因果関係ツリーの例。

予測から検索へ。経済分析の“民主化”とその先の未来

私たちにとって2019年は、「xenoBrain」の正式版をリリースした節目の年になりました。ここからはバージョンアップを重ねることで完成度を高め、スケールさせていくタイミングで、まさに正念場。KIIには昨年12月からサポートをしていただいていますが、私自身、経営者として様々な決断が要求されるなかで、多岐にわたる相談ができるのはとても心強いことです。

今後の短中期的な目標としては、“予測”という行為のあり方そのものを変えたいと考えています。例えば製造業の場合、これまでのように原料や製品市場などの様々なデータを収集し、エクセルに入力して計算するのではなく、「来年 鉄鋼の価格」などの検索ワードを入れるだけですぐに予測結果が表示されるようにしたい。「xenoBrain」によって、「未来とは分析するものではなく、検索するもの」という世界観を定着させることが目標です。

なお、AIを用いた経済分析サービスは、アメリカでは「Predictive Analytics」と呼ばれており、ユニコーン企業も誕生するなど盛り上がりを見せています。日本は出遅れている状況ですが、私たちはこのテクノロジーをあえて「フォーキャストテック」と名付け、新たな技術分野として発展させていきたい。AIの強みは膨大なデータを扱いながら、識別、生成、予測ができることにあります。このうち最も難しいのが予測の技術ですが、この領域に革新をもたらし、フィンテックに次ぐ大きな潮流を巻き起こしていきたいと考えています。

さらに、経済の未来が検索できるようになることで、これまでは暗黙知として専門家に独占されていた知識が可視化され、誰もがそのナレッジを活用できるようになる。これを私たちは「分析の民主化」と呼んでいます。この大きな可能性に加えて、私個人のモチベーションとしては、「検索一つで未来を予測できるような世界を、この目で見てみたい」という思いがある。それが必ずや、社会全体にも大きなインパクトを及ぼすに違いない。そんなイメージに私自身ワクワクしながら、この可能性を大きく広げていきたいと考えています。

【公式サイトへのリンク】
https://www.xenodata-lab.com/