Startup Company
2018/6/20
投資先ストーリー
09

AdipoSeeds
代表取締役社長 宮崎洋 & 医学博士 松原由美子 インタビュー

唯一無二の技術で挑む再生医療の新機軸

抗がん剤使用時などの血小板減少に対して有効な
血小板製剤。少子高齢化による供給危機が迫るなか、
世界初の技術を手に立ち上がった人々がいた。
慶應義塾大学発、血液学の第一人者による
再生医療ベンチャー、AdipoSeeds。
研究者たちの熱意で描く、革新と希望の物語。

唯一無二の技術で挑む再生医療の新機軸 – AdipoSeeds

迫り来る “血小板不足” に立ち向かう再生医療ベンチャー

松原:AdipoSeeds(アディポシーズ)社は2016年7月に、恩師である慶應義塾大学医学部の池田康夫名誉教授と私たちが研究に携わってきた「皮下脂肪組織由来の間葉系幹細胞から血小板を人工的に創製する技術」の実用化を目指して設立されました。社名は「脂肪」を意味する「Adipo」、「種」を意味する「Seeds」を組み合わせた造語で、皮下脂肪の細胞から新たな治療法を作り出すというビジョンを表現しています。

設立の背景には、大きく二つの理由があります。第一に、タイムロスのないシームレスな研究体制を実現すること。現時点では全体の95%を公的資金に頼っていますが、支給対象となる期間が限られており、特定の期間や年度をまたいだ継続的な研究体制の確立が急務です。第二に、知的財産の管理も欠かせません。いずれも、私たちの技術が「再生医療等製品」として治療の現場で使われるようになるためには避けて通ることのできない課題です。

研究と並行してこれらの課題に取り組むにあたり、かねてから血液学や血栓止血などの研究を通して親交のあった宮崎さんにお願いをして、代表取締役を引き受けていただきました。

宮崎:私はかつてキリンビール株式会社や協和発酵キリン株式会社の研究所で創薬の研究に関わり、13年からは国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)に3年半ほど所属していました。池田康夫先生とは20年以上の付き合いになりますし、血小板に不可欠なタンパク質が作られるメカニズムの解明など、私自身の経験でお役に立てればと思い、設立から約1年後に合流した次第です。

松原:血小板にまつわる私たちの独自技術ですが、大きく分けて二つの用途があります。一つは輸血の代替となること、もう一つは傷ついた組織の治癒を早めることです。

一つ目の輸血についてご説明すると、血小板は血液に含まれる細胞成分で、傷口を塞いで止血する作用があり、抗がん剤の使用などで血小板が減ったときには血小板輸血が行われます。しかし、輸血用の血小板は100%献血に依存しており、数日しか保存が効きません。今後、高齢化とともに抗がん剤の投与患者数が増えていく一方、人口減少で献血の量が減るのは必至のため、血小板不足に陥るのはもはや時間の問題です。

また、二つ目に挙げた傷の治癒促進作用に用いる血小板は現時点では患者自身から採取する必要があり、大量の採血は難しく、その点が課題になっています。

皮下脂肪から血小板を作り出す、常識破りの画期的技術

宮崎:このように血小板不足は、我が国の将来を考える上で非常に重要な問題にほかなりません。日本でもiPS細胞(人工多能性幹細胞)から血小板を作る研究が進められてきましたが、この方法は外部から遺伝子を導入する必要があり、安定的な提供が難しく、細胞の “がん化” などの懸念材料が付いて回ります。

松原:そこで私たちが開発に成功したのが、皮下脂肪から幹細胞(間葉系幹細胞)を取り出し、試験管内で刺激を加えることで血小板を作り出す技術です。脂肪が原料であるため採取しやすく、外部からの遺伝子を必要としないため再現性や安全性が高いなど、低コストで画期的な治療法を実現できます。なお、この方法の実用化に取り組んでいるところは、おそらく世界に例がないはずです。

宮崎:そもそも間葉系幹細胞が血小板に分化するということ自体が、医学界の常識を覆す、非常に革新的な発見でした。そこから、遺伝子レベルで血小板への分化のメカニズムを解明し、知財の申請を行い、治療に必要な質と量の供給に向けた研究を進めてきたわけです。実は私自身、AdipoSeedsに合流する前から毎週末この研究室に通い、池田先生や松原先生とともに研究交流を深めてきました。

松原:実用化を目指すにあたり、現在は二つの用途に注力しています。一つは、先ほどお話しした輸血用の血小板です。もう一つは創傷治療のための外用薬ですが、どちらも基礎研究に続いて動物試験、その次に人への投与を行う治験や臨床研究へと進まなければなりません。

そのステップを着実にクリアしていくために、KIIからは多大なサポートをしていただいています。きっかけは、会社の立ち上げがKIIの設立と同時期だったこと。事業計画についてプレゼンを行い、世界で唯一の技術であること、実現性の高さなどを評価していただくことができました。

宮崎:さまざまな契約や投資の話をはじめ、KIIにはあらゆる面でお世話になっています。実用化に向けた知財管理やリサーチは私自身にとっても気付きの連続で、毎日が勉強ですね。

「人類の未来に貢献する」その決意で明日を描く

松原:今後は研究を進める一方で、製薬会社との共同研究開発のフェーズを目指したいと考えています。日々、そのために切磋琢磨しているところです。このプロジェクトを成功させることで、KIIに恩返しをしたい。そんな思いもあります。

宮崎:日本の血液医学には、戦前から世界をリードしてきた歴史がある。なかでも血小板による創薬は、先ほどお話ししたiPS細胞を用いる方法が国を挙げて推進されています。私たちとしては “敵か味方か” ではなく、それぞれに選択肢として有効性を高め、今後の再生医療に寄与していきたいという考えです。

松原:一方で、この手法が新たな薬を生み出すためのツールとして確立されれば、創薬の研究開発だけでなく、ひいては科学の発展そのものにも貢献できるかもしれません。その意味でも、私たちの座右の銘は「サイエンスをリスペクトする」こと。研究者である以上、科学に貢献する気持ちを忘れたらおしまいだと、つねに肝に銘じているところです。

それに、ベンチャー企業の立ち上げというと、多くの方には二十代、三十代の方が主役のイメージがあるかもしれません。そのなかで私たちの挑戦が「経験を積んできた研究者にも、まだまだ新たな道がある」という先例になったなら、嬉しいですね。

宮崎:ゆくゆくはオープンイノベーションの姿勢で、さまざまな研究者や企業の方々など、多くの人々にこの技術を活用していただき、新たなアイデアでより幅広い疾患に適応する治療法の開発につなげてほしい。「この技術で人類の未来に貢献したい」、それが私たちの夢であり、希望でもあります。

でも、挑戦はまだ始まったばかり。ここからが頑張りどころだと思っています。

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株式会社AdipoSeeds(アディポシーズ)
慶應義塾大学医学部発の再生医療ベンチャー企業として「皮下脂肪組織由来の間葉系幹細胞から血小板を人工的に創製する技術の実用化」を目的に、医学部臨床研究推進センターの松原由美子特任准教授らにより2016年に設立。翌年には宮崎洋を代表取締役社長に迎え、血小板を用いた画期的な治療法の早期実用化に取り組んでいる。