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2019/6/25
投資先ストーリー
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APB
代表取締役 堀江英明 インタビュー

世界初、「全樹脂電池」で導く未来革命

AIやIoTなどの技術が目覚ましい進展を遂げる一方で、
増え続けるエネルギー消費量への対処が叫ばれている。
そんな中、既存のリチウムイオン電池の常識を超えて
社会レベルのインパクトを放つ驚異的な電池が誕生した。
APB株式会社が開発し、量産化を進める「全樹脂電池」。
“究極の電池”に懸けるその想いが、新たな未来の扉を拓く。

世界初、「全樹脂電池」で導く未来革命 – APB

EV用電池の開発で培った、電池と社会の先見的ビジョン

弊社は2018年10月の設立以来、革新的な特徴を持つ次世代型電池「全樹脂電池(All Polymer Battery)」の開発と量産技術の確立に取り組んでいます。

私自身は1990年から2007年まで20年近くにわたり、日本の大手自動車会社でEV(電気自動車)用高性能電源システムの研究開発に携わってきました。当初はまだ「高性能電池」という分野自体がほとんど白紙の状態で、同時期にリチウムイオン電池を発表したソニーとの共同開発を提案し、理論から制御技術、システム構成に至るまで、あらゆる角度から開発に取り組みました。

ここで、電池技術が社会に与える影響についてお話ししましょう。今や電気は私たちの社会に欠かせないエネルギーとなっています。その理由は、他の方法に比べて最もエネルギー効率が高く、クリーンで、遠く離れた場所にも届けることができること。しかし唯一、貯蔵が難しいという欠点がありました。では、電気エネルギーを貯蔵しておける大型の高性能電池がもし完成したなら、どうでしょうか。様々な形態のエネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスは既に存在していますので、今まで貯められることなく棄てられてきたエネルギーを電気エネルギーの形で貯蔵し、無駄なく利用し尽くすエネルギーのネットワークができあがる。それによって、産業や社会のあり方も大きな変革を遂げることでしょう。

じつは私は、自動車会社と並行して、東京大学の人工物工学研究センターで准教授、生産技術研究所では特任教授として、定置型の大型蓄電池の研究に取り組んできました。これは巨大な高性能電池を地域ごとに設置し、国や広域な地域ごとにエネルギーを無駄なく回していくネットワークを実現するための技術ですが、この領域の研究は世界でもまだほとんど進んでいません。

現在は、慶應義塾大学の政策・メディア研究科の特任教授として、こうした新しい基幹エネルギーやそのためのシステムをはじめ、将来の人間社会に必要な人工物のあり方について研究をしています。

そして、その一方で開発を進めてきたのが、全樹脂電池です。この技術を使えば、既存のリチウムイオン電池の様々なデメリットを解決しつつ、長さ数十メートル規模の巨大な定置用蓄電池を実現することもできるのです。

三洋化成工業との共同開発による、全樹脂電池の蓄電池シート。樹脂(高分子材料)による構造特性を活かし、従来技術では不可能だったシート状などの様々な展開が可能になる。

 

電池の常識を覆す「全樹脂電池」の破壊的インパクト

では、全樹脂電池とはどのようなものか。その名のとおり、電極を含めてほぼすべてが樹脂(高分子材料)で作られた、まったく新しい材料と構造からなるリチウムイオン電池です。従来のリチウムイオン電池は、携帯電話やパソコン用のモバイルバッテリーの発火事故が相次ぎ、飛行機などへの持ち込みが制限されているように、劣化や強い力による変形などで電池内部の金属部品が短絡(ショート)して高温になり、電解液からガスが発生して爆発や発火に至るおそれがあります。また、材料の種類や構造が複雑で形状が自由にならないこと、リサイクルしにくい点なども問題とされてきました。

そこで私が考案したのが、歴史上初めて電極などに金属を使わない、樹脂による電池です。試作と検証を重ね、2012年からは化学メーカーの三洋化成工業と共同研究に取り組み、世界で初めて導電性のゲルポリマーを用いた電池の開発に成功しました。紙おむつのほか様々な用途に使われる高吸水性樹脂を世界で初めて商業生産するなど、同社が持つ世界屈指の技術を得て、材料と構造の両面で画期的な電池が完成したのです。

素材としては、正極と負極で異なる樹脂材料を採用し、ゲル構造化をしています。構造については、電池としてはかつてなく簡素な構造である「バイポーラ構造」が特徴です。その結果、従来の倍以上の電気容量までエネルギー密度を高めながら、可塑性(形を自由に変えられること)を持ち、折り曲げたり釘を刺しても発熱・発火の危険がほとんどなく、生産が容易でコストを抑えながら、大型化やリサイクルにも優れるといった数々の性能や特徴を、すべて同時に実現することができました。

従来の電池構造(左)とバイポーラ構造(右)の比較図。バイポーラ構造は負極集電体(青)と正極集電体(赤)を積層したシンプルな構造で、安全性に加えて生産コスト面でも大きな優位性を持つ。

 

このように全樹脂電池の実用化の目処が立ったところで、KIIには2018年の夏にお声がけをいただきました。次のステップである製品化のために会社の立ち上げをご提案いただき、10月にはAPB株式会社を設立。現在は量産体制を整えているところで、2年半後には最初の製品を市場に展開したい考えです。

この電池はまったく新しい工法、構造、材料から成り立っていますが、世界展開を見据える以上、初動にはスピード感が欠かせません。大きな一歩を踏み出すきっかけを与えてくださったことに感謝しつつ、安価かつ迅速に製造できるという長所を活かして、まずは1000億円の売上高を目指したいと考えています。

新電池で導くエネルギー革命、人類史の新たなる展望

一方で高性能電池を巡る日本の状況ですが、「韓国、中国に後れを取っている」と書かれた記事をよく目にします。こうした論調は個人的に好きではありませんが、開発費総額に桁違いの差がある状況は否定できません。そのなかでこの新電池技術には、従来電池を遙かに凌駕するビジネスキャパシティがあると確信しています。

一例として、材料コストは従来の約半分、製造設備の費用も数十分の一に抑えられます。他にも多くのメリットがありますが、中でも大きなポイントは、様々な形状に対応するフレキシビリティ。例えば、今の二足歩行ロボットは背中に箱のようなバッテリーを背負っていますが、全樹脂電池は非常に小さく薄く、変形にも安全で、可動性を持たせることもできるため、ロボットの脚や腕など可動部に分散して配置することが可能です。さらに、車椅子のフレームや飛行機の外殻と一体化させるなど、構造自体に組み込むことによって、いわば「物自体を電池にする」ことができるのです。

振り返れば私は90年初頭の熱デザインに始まり、電子回路を適用した組電池制御技術、高出力化技術など、EV/HEV(ハイブリッド車)用高性能電池システムにまつわる新技術を自ら創出することで、EV最大の課題と言われた電池の根本的な問題を解決してきたと自負しています。あれから約30年が経ち、現在検討中ではありますが次の最大のターゲットとして、今まで社会に存在しなかった定置用大型蓄電システムをいち早く生み出し、大規模に社会実装を進めていきたい。それによって、今後の最大のビジネスとも言われる世界のエネルギーシステムを根底から変え、世界中の人々の生活をより良いものにしていけるならと心から願っています。

その上で大切なのは、この新技術の恩恵を世界中の人々と共有すること。優れた技術だからこそ、より多くの人たちのイマジネーションを得て、社会を動かす流れにつなげたい。そのためには何よりも初動が肝心です。すでに世界的な企業の方々から協業や共同研究などのご相談をいただいていますが、KIIをはじめとする支援を背景に様々な技術と連携しながら、スピード感を持って世界にこの技術を広めていきたいと考えています。

さらに私はこの電池技術の普及の先に、現在の情報化社会の次の段階を見据えています。それは、産業革命、情報革命に続いて、情報と電気がともに電子を介して紐づけられることで引き起こされる「情報エネルギー革命」です。物事を効率的に動かす情報のネットワークがエネルギーと同一のものになることで、社会は歴史上最も正確で信頼性が高く、人間と環境の両方にとって最もよいあり方へと進化を遂げることでしょう。この電池技術によって、私たちの未来は大きく変わる。私たちはまだ、その一歩を踏み出したばかりです。

APBのウェブサイトへ
https://apb.co.jp/

APB株式会社
電気自動車(EV)用電池の開発や東京大学生産技術研究所を経て慶應義塾大学で特任教授を務める堀江英明により、2018年10月に設立。自ら考案し、三洋化成工業株式会社との共同開発を進めてきた革新的な新型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の技術を確立。従来電池に代わる新たな用途や市場を開拓するべく、製品化と量産化を進めている。

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