Startup Company
2018/12/14
投資先ストーリー
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IDACセラノスティクス
代表取締役社長 伊藤哲 インタビュー

がん免疫療法を革新する抗体医薬の展望

“第4のがん治療法”として注目される、がん免疫療法。
副作用などが問題になる中で、新たな発想に基づく
画期的な抗体医薬の展望が開けつつあるーー。
難治性疾患やがんなどの治療薬開発に取り組む
バイオベンチャー、IDACセラノスティクス。
医薬品業界の壁に挑む、その眼差しの行方とは。

がん免疫療法を革新する抗体医薬の展望 – IDACセラノスティクス

がん免疫療法の革新的創薬を目指すバイオベンチャー
弊社はがんや難治性疾患の治療薬を中心に研究開発を行うベンチャー企業です。主に抗CD4抗体を用いたがんの抗体医薬と、多発性骨髄腫、B型肝炎の治療薬の研究開発を行っています。
まず、抗CD4抗体について簡単にご説明しましょう。がんの治療法としては手術、放射線療法、抗がん剤などの薬物療法が3大療法として知られていますが、“第4の治療法”として注目を集めているのが、がん免疫療法です。人間の体には異物を取り除く免疫機能がありますが、がん細胞にはこの免疫の働きをブロックする能力が備わっています。これに対してがん免疫療法では、免疫細胞が作り出す抗体を人工的に合成して免疫の力を高めたり、がん細胞の免疫抑制作用を解除するなどの方法が研究されています。2018年のノーベル生理学賞・医学賞を受賞した本庶佑(ほんじょ・たすく)博士が開発に携わった「オプジーボ」は、後者を代表する薬といえるでしょう。
一方で、我々が扱う抗CD4抗体は、がんが免疫の働きを抑制する「CD4陽性T細胞」を、一時的に除去する効果を持つ抗体です。マウスを用いた実験では、腎臓がん、大腸がん、肺がんなどのがん細胞の増殖を抑える効果が認められました。かつて抗CD4抗体には自己免疫疾患を中心とする様々な病気に対する効果が期待され、大手製薬企業を中心に研究が進められましたが、いずれも大きな成果に結び付かないままでした。その中で、東京大学大学院の松島綱治教授が根気強く抗CD4抗体に取り組み続けた結果、がんに対する効果を発見し、その成果を抗体医薬として確立するための研究開発に乗り出したというわけです。
松島先生に会社設立のお声がけをいただいたきっかけは、かつて一緒にDNAチップ開発のバイオベンチャー企業に携わっていたご縁から。2012年の設立当初は、白血病や悪性リンパ腫などの血液がんに取り組んでいました。血液がんには様々な治療法が知られていますが、いずれも根治するのは非常に難しく、最も確実な方法である骨髄移植にしても、重篤な副作用が多く見られます。しかし抗CD4抗体の「IT1208」を用いた松島教授の実験では、副作用を抑えながら大きな効果を引き出すことに成功しました。この手応えを元にマーケットを広げるべく、血液がんからいわゆる一般的な“臓器のがん”である固形がんを対象にするべく展開を図りました。現在はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の支援のもと、医師の主導によるフェーズ1の臨床試験に取り組んでいるところです。

診断と治療を同時に行う、画期的な治療法のために
会社名の「IDACセラノスティクス」ですが、「IDAC」は「Inflammatory Disease and Cancer」、英語で「炎症疾患とがん」を表す言葉です。このうち炎症はがんを含め、肺炎や糖尿病など、ほとんどの病気に関与しています。その中で私たちが視野に入れているのは、「unmet medical needs」が求められるような、まだ治療法が確立されていない難病です。
また、「セラノスティクス」という言葉は「診断(diagnostics)」と「治療(therapy)」を掛け合わせた言葉で、診断と治療を同時に適用し、患者さんのために貢献したいという意味を込めています。現在はまだ、診断薬によって何の病気かがわかったところで治療法がないケースが数多くあること、診断システムをつくる企業と薬をつくる企業との間で連携が難しいことも問題です。
例えば、先ほどお話ししたがん免疫療法のうち、がんの免疫抑制作用を取り除く「オプジーボ」や「キイトルーダ」などの薬が効くかどうかは、あらかじめ患者の体内からがんの組織細胞を採取し、診断しなければわかりません。それに対して抗CD4抗体の場合は、最小限の注射と血液採取によって、治療の進展に応じてこのまま投薬を続けてよいか、ストップしたほうがよいかについて迅速に判断できる可能性があります。
また、私たちは同時に、多発性骨髄腫の治療薬の開発にも取り組んでいます。多発性骨髄腫は血液がんの一種ですが、薬では根治できず、2〜3割の患者にはその薬も効果を発揮できません。そこで、慶應義塾大学薬学部の服部豊教授とともに新しい分子化合物を発見し、16年に物質特許を出願しました。また、慶應義塾大学理工学部 生命情報学科の柳川弘志 元教授が慶應在籍時に確立した様々な技術の特許を弊社に移管していただき、それを元にB型肝炎の治療薬の開発にも取り組んでいます。
KIIには抗CD4抗体のプロジェクトに加え、こうした取り組みを評価いただき、2017年9月にパートナーシップを締結しました。ベンチャーキャピタルの多くが利益性ばかりに着目しがちな状況の中で、KIIには私たちの理念や取り組みをしっかりと理解していただいていると感じています。慶應義塾大学で進められている様々な面白い研究についても紹介していただくなど、私たちにとってもとても心強い存在です。

誰もやらなかった方法で、新たな道筋を拓きたい
今後の展望としては、まず何よりも人々の役に立つ薬を形にすることです。新しい治療薬を開発し、それを世に送り出すためには、臨床治験など承認のステップを踏んでいく上でも製品化の上でも、国内外の研究機関や製薬会社と手を組む必要があります。共同研究に取り組むのか、ライセンスを提供するのか……タイミングを見定め、お互いにとって望ましい形を探りながら、慎重に進めていく必要があるでしょう。
また、抗CD4抗体に関しても、この一剤だけではなく、既にある薬との組み合わせで有効な治療法につなげる考え方が必要だと思います。そうすれば、患者の負担もトータルの医療コストも軽減されるはず。どの程度の症状であれば効くのか、どの薬との組み合わせが効くのかなど、これから検証していかなければならないことがたくさんあります。がんには様々な種類がありますが、それぞれのがんに対する効果も検証しなければなりません。
個人的な心がけとしては、がんやB型肝炎などの学会にできるだけ足を運んで、新しい情報を入手するようにしています。研究志向の医師たちと話をして、今何に関心があるのか、どんなことに困っているのかを聞き出す作業です。
私自身、これまでの長きにわたって診断薬の研究開発にキャリアを捧げてきましたが、今はこのように治療薬の確立に心血を注ぐようになりました。たとえ初期の段階で病気を見つけることに寄与できたとしても、それが治らない病気ばかりだったとしたらどうでしょう。私が今取り組んでいきたいと考えているのは、病気で困っている患者さんたちのために、これまでとは違う、他の人がやらないような方法で新たな道筋を切り拓くことです。その意志の下に、これからも努力を重ねていきたいと思います。

IDACセラノスティクスのウェブサイトへ

IDAC(アイダック)セラノスティクス株式会社
東京大学大学院の松島綱治教授、慶應義塾大学理工学部 生命情報学科の柳川弘志 元教授により、2012年4月に設立。がん免疫療法において新たな効果を発揮する抗CD4抗体の実用化に向けた取り組みで「日本バイオベンチャー大賞 大学発バイオベンチャー協会賞」を受賞するなど、難治性疾患、がんを中心とする創薬のためにイノベーティブな研究開発に取り組んでいる。

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